久しぶりに大きな書店に行ってみると、入口近くに、「民主主義」に関する書物がずらりと並んでいるしかもたいていは、「民主主義の崩壊」だとか、「民主主義の失敗」などというたいへんに悲観的なタイトルである。
確かに民主主義がうまくいっていないという実感はもはや隠すすべもなく広がっている。一方では、中国の台頭がある。非民主的国家が民主主義の欧米よりも経済的成功を収め、危機に対する対応が迅速かつ徹底している。経済運営においても、今日のように、グローバリズムがうまく機能せず、国家間競争が激しくなると、国の戦略が決定的に国益を左右する。経済政策なら自由・民主主義でも何とかなるが、大規模な経済戦略となると、いわゆる権威主義国家の方が有利になる。こうして、民主主義国は「外から」の脅威にさらされている。
――(「ひらく⑧」巻頭言より抜粋)
 
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【寄稿者】
佐伯啓思(さえき・けいし)
1949年奈良県生まれ。東京大学経済学部卒業。滋賀大学、京都大学大学院教授などを歴任。現在京都大学名誉教授、京都大学こころの未来研究センター特任教授。著書に『隠された思考』(サントリー学芸賞)『「アメリカニズム」の終焉』(東畑記念賞)『現代日本のリベラリズム』(読売論壇賞)『倫理としてのナショナリズム』『日本の愛国心』『大転換』『現代文明論講義』『反・幸福論』『経済学の犯罪』『西田幾多郎』『さらば、民主主義』『経済成長主義への訣別』『「脱」戦後のすすめ』など。近著に『「保守」のゆくえ』(中公新書ラクレ)『死と生』(新潮新書)『異論のススメ 正論のススメ』(A&F出版)など。